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大阪高等裁判所 昭和34年(う)566号 判決 1959年9月16日

被告人 藤田周平

主文

本件控訴を棄却する。

理由

同(弁護人の)控訴趣意中第二点(法令適用違反の主張)について。

しかしながら刑法第一一七条の二重過失失火罪は普通人の払うべき注意を著しく欠くことにより失火に及んだ場合であつて普通人であると、心神粍弱者であるとにより右注意の程度に差別のあるものではなく、ただ法は不能を強いるものではないから、犯人が心神粍弱者である場合には同人が精神の障害のため右重過失を犯さざることを期待し得られない場合にはその罪責を問い得ないものと解すべきである。これを本件についてみると、原判決挙示の証拠によると、本件焼失にかゝる建物は木造モルタル塗一部中二階付平屋木造建の(建坪一二四坪)学校の講堂であつて、被告人はこれに侵入し、入口に向つて左側の中二階に通ずる階段の西側に設けてある木製壁付台に座つていたさい寒さにたえかね火を燃やして暖をとろうとしたのであるが、そもそも木製の台の上で直接たき火をすればこれに引火するおそれがあるのみならず、更に同壁付台の壁側に布製カーテンが取りつけられてあり殆んど右台上まで垂れ下つていたので、右台上で火気を用いるときは同カーテンに引火する危険があるから、このような場所でたき火をするが如きことは厳につつしまねばならないものであるのみならず、仮に万一同所で火気を用いるときには細心の注意を払い台板の燃焼やカーテンへの引火の危険を未然に防止すべき極めて明瞭な注意義務があるにかゝわらず、漫然所携の映画プログラム、煙草空箱を丸めて点火し、かつそのまゝ仮睡した重大な過失により本件失火に及んだことが認められ、被告人が心神耗弱者であるとはいえかゝる結果を予見しかつそのような結果を避けるための注意を払い得る能力を有していたことは、鑑定人原田一彦作成の鑑定書中同鑑定人と被告人との問答の記載、その他被告人の検察官、司法警察員に対する各供述調書に徴して充分認められるから原審が本件につき被告人に対し刑法第一一七条の二の重過失失火罪の規定を適用処断したことは何等法令の適用を誤つたものではないから所論は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 万歳規矩楼 小川武夫 柳田俊雄)

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